代表あいさつ

「解なき時代向き合うために

かつて、私は何も知りませんでした。
「農」や「食」に関する世界が、これほど面白く、そして深遠であることを。

下がり続ける食料自給率とは裏腹に、私たちは飽食の時代を生きています。 高度成長期に置き去りにされた地方や1次産業が、最近にわかに注目を集めています。 経済のグローバル化と自由主義化によって世界が狭まる中、行き過ぎた資本主義のツケが目立ち始めています。

明治維新から150年、戦後復興から70年。わが国は目覚ましい発展を遂げ、世界有数の経済大国になりました。 しかしこの間に、私たちは何を手にし、何を失ったのでしょうか。

「日本の農業は強い」
この主張は、一方で正しく、一方で誤っています。わが国の農業は、 まもなくリタイアを迎える高齢農業者の「根性」「プライド」「使命感」が下支えしてきた現実があります。 機械化による規模拡大には、エネルギー自給率の問題が潜在しています。篤農家の優れた技術が、 受け継がれないまま消失してしまいそうなことを、都会の人たちは知りません。

安全保障の観点からも、食料は極めて重要です。海外諸国は農業の産業化を進める傍らで、しっかりとした保護政策を採っています。 経済合理性や市場原理だけで「農」という世界を語ることはできず、儲かる農業のみを追求するだけでよいのなら、 この小さな島国で、誰が米や麦、豆などの穀物を作るのでしょう。

誤解を恐れずいえば、日本農業は瀕死の状態です。そして、農業界や地方が抱えるのは、構造的な問題です。高度成長期の都市部への人口流出、 モノがない時代に出来た流通システム、「生産」と「消費」の過度の分離。 確かに、旧態依然とした部分が多いのは事実でも、それを放置し、見て見ぬふりをしてきた私たちにも責任があります。

しかし、まだ打つべき手が残されています。農業生産の現場に、地方行政の根底に、経営をしっかり根付かせること。 経営的視点やビジネススキルは、手段であって目的ではありません。守るべきものを守り、次の世代に継承するために、 産地や農業者、地方行政に携わる方々は、今こそ積極的に経営を行うことが重要ではないでしょうか。

いま、私たちは前例のない時代を生きています。
人口減少社会が到来し、右肩上がりの経済成長に答えを求める時代ではなくなりました。 また、2011年の災害を経て、わが国が抱える「農」と「食」の課題は、さらに大きなものになりました。

「解なき時代」に向き合うために、全力で試行錯誤を重ねて参ります。

株式会社 禾の人代表取締役北埜 修司